Defiのバックボーン 日本精機の技術―高精度とハイレスポンスを担う「STS」 2004/11/10
日本精機の創業は昭和20年。Defiブランドの歴史はまだまだ浅いですが、日本精機の70年に及ぶ歴史とその中で培った技術をバックボーンに、Defiの斬新なアイデアをプラスし、スポーツ走行向けにリファインしてアフター市場に参入しました。
Defiをたくさんの方に認知していただけた今では、Defiを知っていても日本精機は知らないという方も多いかもしれません。しかし、日本精機の技術の強みを知らずしてDefiの強みは語れません。
Defiが唱える「高精度」 「ハイレスポンス」 「高性能」。このうち、「高性能」は日本精機の技術にDefiで独自にアフターマーケット向けの機能を盛り込んで、製品開発を行なってきました。しかし、「高精度」と「ハイレスポンス」の技術は日本精機が培ってきた技術を表現したキャッチフレーズです。
そこで、日本精機が世界に誇る技術の一つで、「高精度」と「ハイレスポンス」の理由をご紹介します。この技術はADVANCEターボ計やタコメーターなどの針の動きが速いアナログメーターに採用されています。
メーターの構造
技術のご紹介の前に、まずメーターの中身を覗いてみましょう。下図はDefi-Link Meter BFのカットモデルです。見えている部分は一部ですが、おおまかな構造はこのようになっています。
上部から順に…まずは、シルバーのリングの部分ですが、正式な部品名をベゼル(表縁)と言います。デザイナーのこだわりでヘアーラインという細い線をつける加工が施され、耐久性を上げるため、アルマイト処理という表面処理をしています。
ベゼルの内側にはガラス、指針、この画像では見えませんが、文字板、光を均一にするための拡散板、導光体、反射板などがあります。
次にプリント板。BFにはプリント板が3枚使われています。1枚目には照明用のLEDが載っています。2枚目にはムーブメント、3枚目にはメーターの動きや通信を制御するマイコンや、メーター同士をリンクさせるコネクターなどが実装されています。設計時は、3枚のプリント板を使いながらメーターの奥行きを抑えることに苦労しました。
2枚目のプリント板に載っているムーブメント、これが日本精機が世界に誇る技術です。ムーブメントとは、メーターの指針を動かすための部品です。
ムーブメントの重要性
Defi-Link Meterの文字板に印刷されている文字を意識してご覧になったことはありますか?メーターの大きさによって印刷されている場所は異なりますが、右下に「STEPMASTER/Model STS26B」(またはSTS26A)と記してあります。これはDefiがアナログメーターに採用しているムーブメントを指します。
STEPMASTER・・・ステップ(カクカク)動作するモーター(=ステッピングモーター)のムーブメントの中で究極のモデルという意味でSTEP MASTERと記しました。
Model STS26B・・・STSは日本精機がこのモデルに付けた名前です。26Bはサイズを表します。26はムーブメントの直径、Bは指針を支えるの軸の長さを指します。Φ80やΦ115のメーターに採用されているのはSTS26Aです。
車のエンジンECUを頭脳、エンジンを心臓部とするならば、メーターのマイコンは頭脳、ムーブメントはメーターの心臓部。ムーブメントの性能で指針の動き、つまり精度や応答性が決まります。
ムーブメントの種類
ムーブメントには電子式と機械式があり、電子式の方が精度も応答性も優れています。また、電子式ムーブメントは大別してボビン型とステッピングモーターの2種類に分けられます。この2種類のムーブメントを比較すると、ステッピングモーターの方が性能も価格もボビン型を上回ります。
※これは当社のモデルの一部を比較したものです。他にもたくさんの種類のムーブメントがあり、また、価格や性能においてもこの限りではない場合もあります。
これまで、メーターのムーブメントといえば二輪も四輪もボビン型が主流でしたが、最近当社で製造している計器にはステッピングモーターのムーブメントを採用したものが多くなってきています。
しかし四輪と二輪を比較した場合、四輪計器ではステッピングモーターを使った機種が増えてきているものの、まだそれほど主流にはなっていません。一方、二輪計器においてはステッピングモーター(STSタイプ)が主流です。それは、二輪は四輪より厳しいスペックを要求されるためです。
二輪は四輪に比べると全般的にエンジン回転数が高く(NAエンジンでレブリミット14,000rpmは珍しくありません)、四輪よりも応答性が求められます。また、フレームに直接メーターを取り付けるため、ケースやムーブメント、基板など全ての部品が耐振動性を求められます。
対して四輪のスペックは二輪ほどシビアではないので、ボビン型ムーブメントやSTSより低いスペックのステッピングモーターが使われています。STSより低いと言っても、その性能は四輪に求められるスペックを十分満たしており、最近の高性能4ドアスポーツ4WDに採用されています。最近では四輪エンジンも馬力規制がなくなり、日本のカーメーカーからより高出力なスポーティーカーが出てくれば、STSのような究極のムーブメントが採用されるかもしれません。
ステッピングモーターについて
ステッピングモーターとは数あるモーターの中の一種で、ステップを刻むモーターです。プリンターヘッドの動作、エアコンのルーバー開閉調整など、動かす物の角度や位置を正確に制御しなくてはならない製品に使用します。このステッピングモーターで初めて車載計器用のムーブメントとして設計されたのがSTSです。1997年生まれです。
当社ではSTSの開発だけでなく、製造も自社内で行っています。ムーブメントの開発も製造も自社で行う、これは計器メーカーの日本精機だからこそ成し得ること、他社にはない強みだと自負しています。
STSのレベル
STSは日本精機の中でも最上位のムーブメントです。250cc以上のレーサーレプリカや高価なリッターオーバーバイクのメーター、二輪レーサー用タコメーターのムーブメントはほとんどがSTSです。
WGPなどのレース用タコメーターにSTSが使われており、WGPレーサーからも「一度STSのタコメータを使うと、実際のエンジン回転とほとんど誤差がないため、クラッチのミートポイントを正確に制御出来る。もう従来のタコメータには戻れない。」とお墨付きです。
Defiの製品は四輪向けだから、ボビン型でよいのでは?STSが必要なのか?という疑問が沸きますが、STSはDefiに必要不可欠なムーブメントです。
Defiユーザーの皆様の中には車をチューニングされる方が多くいらっしゃいます。チューニングされたハイレベルな車につけるメーターにはSTSがベスト。また、純正のメーターで表示させるスピードやタコにはない、ターボ計やインマニ計など、レスポンスを要求される機種の指針を正確に動かすためにもSTSが必要なのです。元々、STSの性能を活かした製品ということで開発が始まり、誕生したのがDefi-Link Meterです。
STSを搭載したことによって、すばやい動きが可能になったメーターの代表はターボ計です。近年、ターボエンジンやタービンなどがめまぐるしい進化を遂げており、アクセル全開にした途端に瞬時に0ブーストになり、そこからあっと言う間に最大ブーストに達します。
シフトチェンジを繰り返す度に、「最大ブースト」と「真空に限りなく近い値」を瞬時に行き来し、最大ブースト140kPaの車であればシフトチェンジのたびに指針は約180度の振れ角を往復します。その間の到達スピードは0.2秒以下です(下のグラフ参照)。
この速さをΦ52やΦ60のメーターで実現することはSTSにとっては容易なことですが、それにとどまらず、STS&Defiの技術は世界初であろうΦ115のターボ計の動きを可能にし製品化しました。Φ115のターボ計の指針を動かすのがどれくらい大変なのかは、下のトルクの項目で言及しています。
「欲しい情報をリアルタイムかつ正確に表現する。」これは最も大事なことです。Defiはそこに楽しさやわくわくするような感動をユーザーに提供したいという思いで、STSでこそ可能なオープニングモードの演出をプラスしました。
では、STSがどれだけすごいのか、特長を見てみましょう(当社他モデルと比較した場合)。
■精度が良い
STSは非常に高精度です。下のグラフのように、指示角度が大きくなると指度誤差はありません。指示角度が小さいときも誤差は0.数パーセント。仮に、入力信号と寸分違わぬ動きをする指針があるとして、それを隣に並べてみても誤差を認識することはできません。
■ハイレスポンス
STSは世界一の応答性を誇ります。非常に速い動きをするターボやインマニプレスの値を指示するのにも十分な応答性と言えます。
※指示角100%はこのグラフでは270度を示します。
■振動に強い
STSは耐振性も世界一です。二輪は四輪に比べて振動が大きく、場合によっては加速度が10Gを越えることもあります。この様な場合でも問題なく動作するように、STSは20Gの振動に耐えられるように設計されています。よって、過酷な振動があるレース用スノーモービルや建設機械にも使われています。
■トルク(力)がある
STSは量産車載メーターの専用ステッピングモーターとしては最大級の力持ちです。ボビン型のムーブメントはSTSに比べるとトルクが弱く、動かせる指針のデザイン(大きさやバランス)が限られますが、STSはトルクが強いので、指針を自由にデザインできるようになりました。
指針を動かすのに十分な力があるので、応答性が良くなります。重く長い指針でも指示させたい位置に瞬時に、かつ安定して動かせます。軽量なΦ52やΦ60用の指針に比べΦ115用の指針は4倍も重く、長さも2倍です。これをΦ52やΦ60と同じ速さで動かすのは大変なことです。
また、指針を動かすのに力が必要なように、指針を止めるのにも力が必要です。入力信号の位置にピタッと止めるにはかなりのトルクを必要とし、この力が無いとオーバーシュート現象が起こります。STSは指針を止めるのにも十分なトルクを持っているので、指示すべき位置に正確に指針を止めることができます。例えると、ハンマー投げのハンマーをぐるぐるまわしたときに、止めたい所ですぐ止まるというイメージです。そしてΦ115の重く長い指針がまわると、Φ52やΦ60の約10倍の慣性がかかります。STSはそれを難なくピタッと止めます。スゴイ!これが高精度の理由でもあります。
■取付角度は自由自在
Defiのアナログメーターはどんな角度にでも取り付けできます。ボビン型ムーブメントの場合、スムーズな動作をさせるために中にオイルを入れなくてはなりません。よって、前方に傾けた状態にしておくとオイルが漏れてしまいます。STSはオイル不要なので、文字板を下に向けたり、上下逆さまに取り付けても問題はありません。
二輪走行では車体を左右に倒しコーナリングし、オフロードではジャンプやウイリーの連続。常にメーターは正しい向きにあるとは限りません。ここが二輪独特の走りを支えている部分でもあります。
■分割が細かい
Defiのアナログメーターの指針の振れ角は270度。STSを駆動させるコントロールICは270度を2,300分割で制御しています。1分割あたり0.12度です。本来、STSの分解能は無限であり、Defiのアナログメーターに使っているコントロールICであれば4,600分割まで制御することが可能です。ただ、目で見る分にはそこまで分割する必要はないため、2,300分割としています。
分割が細かければ、指針はインプットされた値のより近い位置まで行くことができ、精度も上がります。
■指針の動きがスムーズ
先に述べた通り、ステッピングモーターはカクカク動作をしますが、Defiのアナログメーターの指針の動きは滑らかです。分割と同じく、STSを駆動させるコントロールICがその制御をしています。ステッピングモーターを使ってスムーズな動作をさせるのは難しい技術ですが、それを可能にしています。
逆にSTEP GRAPHはあえてフルスケールの分割を粗くし、そのカクカク動作をそのまま活かし、昔懐かしい機械式タコメーターのようなマニア好みのユニークなステップ動作を楽しむ製品でした。
以上から、Defi-Link MeterやBFの特長の多くはSTSの特長でもあることがわかります。STSはDefiにとって救世主のような存在で、車を楽しむ上級者ユーザーの皆様が使うメーターには欠かせないムーブメントです。これからはリンクシステムや照明、デザインなどの他にも、指針の動きにも注目してみてください。